大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和36年(行)5号 判決

尼崎市東園田町二丁目九五番地

原告

大坪清人

久留米市諏訪野町四丁目二四〇一番地

被告

久留米税務署長

浜口斉治

右指定代理人・訟務部長検事

島村芳見

右同・訟務部第二課長

中野秀吉

右同・法務事務官

東熙

右同・大蔵事務官

安永一男

右同

近藤兼義

右同

大塚悟

右当事者間の所得税査定額更正決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

(原告)

被告が昭和三五年九月二〇日付をもつて原告の昭和三一年度分所得税について、総所得額を金二八万七、六一五円、所得税額を金四万八、八〇〇円とした更正処分は、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。

第二、当事者の事実上の主張

右については別紙のとおりである。

第三、証拠

(原告)

甲第一号証の一ないし四、同第二、三号証、同第四号証の一、二、同第五ないし七号証、同第八号証の一ないし四七、四九ないし一〇七、同第九ないし一三号証、同第一四号証の一ないし一七、一九、二〇、同第一五号証の一ないし五、同第一七ないし一九号証、同第二〇号証の一ないし八、同第二一ないし二五号証を提出。

証人松野六三郎の証言を援用。

乙第八号証の成立は知らない、その余の乙号各証の成立を認める。

(被告)

乙第一号証の一、二、同第二号証の一、二、同第三号証の一ないし五、同第四号証の一、二、同第五号証の一ないし四、同第六ないし九号証、同第一〇号証の一ないし三を提出。

証人近藤兼義、同首藤義人(第一、二回)、同衛藤慎吾、同山口弘次の各証言を援用。

甲第一号証の一ないし四、同第二号証、同第四号証の一、二、同第五、六号証、同第八号証の四九ないし五九、七五、七六、同第一〇号証、同第一四号証の一〇ないし一四、同第一五号証の四、五、同第一八、一九号証、同第二〇号証の一ないし八、同第二一ないし二三号証、同第二五号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は知らない(第七号証の黒木町長証明部分の成立は認める)。

理由

一、請求原因第一ないし四項の事実については争いがないので、被告が昭和三五年九月二〇日付をもつてなした本件決定の適否を判断するため、原告の五項目に亘る所得に関し被告及び原告のなしたその算出方法について以下これを順に検討することにする。

二、農業所得

(一)  所得

(1)  田の所得のうち裏作の分四、三七七円及び畑の所得のうち一月以降六月までの分一万〇、七〇〇円については争いがない。

(2)  そこで原告が立毛のまま昭和三一年八月一〇日仲司桃太郎に売却した分について考えるに、証人衛藤慎吾の証言によれば、原告は福岡国税局長に審査請求をなした際、田畑の成熟度について、田については一〇分の七、畑については一〇分の四と主張していた事実が認められ、これに反する証拠はない。

(3)  田について被告は一〇分の五として計算しているが、これは右一〇分の七の範囲内であり、しかも原告が期間即ち成熟度として主張するのは六分の四であつて右一〇分の五はこれの範囲内でもあるのでこの分の所得算出に当つては一〇分の五をもつて計算するのを相当と考える。

(4)  又畑について、原告は被告の計算のように期間と成熟度とを乗ずれば二重に評価することになり不当である旨主張するが、被告が主張する反当標準所得額は一年を通じての所得であるので、これを基礎とする限りにおいて一年に一回しか収穫のない単作の田と違つて年に二度(一年を二つに分けて考えることには争いがないのでこう考えるのも誤りではない)畑としての効用・収穫のある場合には、期間(一二分の六)と成熟度(一〇分の四)とを乗ずるのは何ら不当ではない。しかも、右一二分の六と一〇分の四とを乗じた値は、原告が期間即ち成熟度として主張する六分の四の範囲内であるので、結局期間、成熟度に関しては被告主張の計算方法は相当である。

(5)  よつて、反当標準所得、作付面積につき争いがないので結局立毛のまま譲渡した分の農業所得は被告主張どおり田について二万二、六五〇円、畑について四、二八〇円となる。

(二)  標準外特別経費

(1)  必要経費に当然には含まれていなかつたところの原告及びその家人でまかなえなかつた作業費即ち使用人に支払つた雇人費及び牛馬耕料についてはこれを前記所得から控除すべきであり、これを控除すべきこと及びその金額即ち雇人費一万六、二〇〇円及び牛馬耕料九、〇〇〇円については当事者間に争いがない。

(2)  原告は更に肥料代、種子代、共済掛金を控除すべき旨主張するが、所得即ち総収入から必要経費を控除した金額を基準とする限りにおいては通常当然に予想される必要経費は考慮されるべきではないので、この点から原告の右主張は失当であり、又田畑の立毛のまま譲渡した分についても所得金額を基準とする以上(総収入金額を基準とし、これから必要経費を控除するのであれば格別―昭和二三年法第二七号の旧所得税法施行規則第九条はこの趣旨である。以下旧所得税法を単に所得税法という。)、更にこれを控除することはできない。

(三)  よつて原告の農業所得は被告主張どおり(一)の合計額から(二)の合計額を控除した一万六、八〇七円となる。

三、給与所得額二万二、三二八円については当事者間に争いがない。

四、譲渡所得

(一)  譲渡価額

原告が昭和三一年八月一〇日仲司桃太郎に建物、土地、農機具等を一二〇万円で売渡したことについては当事者間に争いがない。ところでこの中には農業所得の対象となる立毛及び山林所得の対象となる立木が含まれていたので、まずこの両者について売却当時の時価を算定し右一二〇万円から控除しなければならない。

(1)  立毛

作付面積及び成熟度については前記農業所得で判断したとおり、立毛は三反、一〇分の五、畑は二、五反、一〇分の四とする。又反当標準収入について、被告は八女郡黒木町地区における昭和三一年度の農業所得標準率により、その反当標準収入金額は田について一万九、八七四円、畑について一万三、五六四円である旨主張し、一方原告は立毛を譲渡所得と主張していた当時はこれを認め、後に立毛を被告に同調して農業所得の必要経費として計算する際同じ標準金額の名称を反当標準所得額と称しているが、この点は明らかに原告の錯誤と思料されるので、結局弁論の全趣旨からすればこの反当標準収入金額については争いがないことになる。

以上によれば、前述農業所得算出と同様に結局被告主張どおりの計算方法によりその収入金額を算出すべきで、これによれば田について二万九、八一一円、畑について六、七八二円となる。

(2)  立木

(イ) 杉及び雑木についての樹令及びそれの生立せる山林の地積が被告主張のとおりであることは、原告において明らかに争わないからこれを自白したものと看做される。

(ロ) 右立木の時価の算定について、これを確実に知ることのできる資料のない本件の場合、それは被告主張のように昭和三一年度分相続財産評価基準によるのが合理的であると考える。この点に関し、原告は該価格の算定は、右山林に設定された抵当権の被担保債権額を基準として算定するのが合理的であると主張するけれども、被担保債権額それ自体のみを基準とする考方には直ちに賛同できない。

(ハ) そして前記評価基準である成立に争いのない乙第一〇号証の三によれば、樹令二〇年の杉は一町歩当り金二二万七、〇〇〇円、樹令九年の雑木は一町歩当り金一万二、〇〇〇円であることが認められるので、これに対し杉の地積〇、二五町、雑木の地積〇、九四町を乗じた合計金六万八、〇三〇円が立木の時価であるといわなければならない。

(3)  以上によれば、譲渡価額は一二〇万から(1)(2)を控除して一〇九万五、三七七円となる。

(二)  取得価額

(1)  建物

原告は、租税特別措置法(昭和二一年法第一五号)第一八条の適用ある場合に当る旨主張するが、そのために必要な同施行規則第二二条第三項の要件即ちその申告書に右一八条の適用を受けようとする旨及び所定の計算に関する明細事項を記載していないこと原告自認するところであるので、結局右主張には理由がない。そこで以下本件建物も譲渡されたものとしてその取得価額について検討する。

(イ) 所得税法第一〇条の四第二項二号によれば、再評価価額と昭和二七年一二月三一日後の設備費等との合計を同法第九条八号に規定する取得価額等とされるので、再評価価額について考えるに、資産再評価法第二五条第一項によれば、再評価価額は取得価額に再評価倍数を乗じた金額とされる。その取得価額算定方法に関しては、財産税調査時期(昭和二一年三月三日)の前後によつてその方法が異るので、まず本件建物の取得時期について検討する。

成立に争いのない乙第二号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一四号証の五、七、証人山口弘次、同近藤兼義、同衛藤慎吾の証言その他弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

(Ⅰ) 原告及びその家族は、原告が復員してまもなく福岡県八女郡笠原村字釈形八、六八八番地酒井三郎方に転入したが、昭和二〇年一一月初旬頃本件建物の建築に着工したこと、そして原告自身は遅くとも昭和二一年一月中旬には又その家族もお正月(新旧を別として)には本件建物に入居したこと(原告の入居の時期には争いがない)。

(Ⅱ) 昭和二〇年内には棟上げし、屋根は杉皮葺、壁は荒壁であつたので、一応人が住まわれるようになつたのは幾等もかからなく、又田舎の普請では大低荒壁ができれば入居するのが習慣となつていること。

(Ⅲ) 家族が引越した後も暫く大工や左官の仕事が残つていたが、その間は家族は建物の一部を使用して居住していたこと。

(Ⅳ) 昭和二一年三月一日に本件建物を建築した大工山口弘次の弟子となつた石崎政之が最初に本件工事にたずさわつた際には、原告方の工事は殆んどでき上つていて、あと仕上仕事が残つておりこれは一〇日か一五日位で完了したこと。

(Ⅴ) 原告が国税局へ提出した資料の中には、建築に使う材料の仕入れ、大工、人夫等の手間等が記載されたノートがあり、その最終の日付は昭和二一年二月上旬となつていたこと。

(Ⅵ) 原告が本件建物を建築するに当つて、資材はすべて自己が購入し、原告の注文による大工、左官、建具等のそれぞれの業者によつて完成され、結局大工にも労賃を支払つただけであること。

以上の各事実が認められ(右(1)に反する証人松野六三郎の証言は前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定に反する証拠はない)、該認定の事実によれば、本件建物は少くとも昭和二一年三月一日にはいわゆる竣工はしていなかつたが独立の建物といえる程度には達し、かつ原告の所有に属したものと解するを相当とする。

(ロ) 右によれば、建物の取得時期は財産税調査時期の昭和二一年三月三日とされるので、同法第二五条第一項にいう別表第一の倍数は一七となる。原告はこれを一三と主張するところからみれば耐用年数につき争いがないことになる。なお、原告は取得時期を右調査時期後と主張するので以後の計算について原告の主張には理由がないことになる。

又取得価額については財産税評価額とされるところ、それは財産税法第二五条、同施行規則第二〇条により当該建物の賃貸価格に当該建物の所在地の所轄財務局長の定める一定の倍数を乗じた額とされる。そこでいずれも成立に争いのない乙第三号証の三、同第六号証によれば本件建物の家屋台帳の賃貸価格(床面積二五・二五坪―八三・四七一〇平方メートル)は二〇円であり、固定資産税台帳の床面積は三四・四三坪(一一三・八一八〇平方メートル)であることが認められ、これに反する証拠はない。右賃貸価格二〇円は昭和二五年の本件建物の登録当時の価格であるので、昭和二四年当時の賃貸価格はこの二〇円を下ることはあれ上まわることはありえないので、右二五・二五坪の二〇円を右三四・四三坪に改算して昭和二四年当時の本件建物所在地に適用されていた財産税評価倍数一二〇(被告は一〇〇というが当時は未だ笠原村であり黒木町ではなかつた)を適用して計算すれば、財産税評価額は三、二七二円となる。

算式 〈省略〉

原告はこれに対し右賃貸価格は近隣の本件建物とは極めて不均衡に価値の低い建物の評価を基準としているので不当であり、原告が現実に本件建物建築に要した費用は二万〇、四九九円である旨主張するが、結局これを証する何らの証拠もないので(賃貸価格を他の近隣のものを参考にして決定したとの証拠はある。甲第一八号証)右主張は容れることができない。

以上によれば、再評価価額は五万五、六二四円となり昭和二七年一二月三一日以後の設備費等について何ら主張のない本件では、結局これが取得価額となる。

算式 3.272×17=55.624

(ハ) 所得税法第一〇条の五によれば、建物の取得価額は前記取得価額から更に減価償却費を控除したものをもつて同法第九条第二項八号にいう取得価額となすので、同法施行規則第一二条の一四に従つて再評価基準日の昭和二八年一月一日から譲渡時までの減価償却計算をすれば次のとおり減価償却額は三、〇〇三円となる。

算式 〈省略〉

註 (1) 定額法による際の残存価額を1割とする。

(2)  耐用年数(45×1.5)=67(年以下切捨て)の減価償却率

(3)  昭和28年1月1日から昭和31年8月10日までの期間を4年とみる。

なお右計算について、被告は定額法により計算する際同規則第一二条の一四の耐用年数に一・五を乗じた数を基礎にした減価償却率を用いないで四五年の償却率を用い又償却期間について六カ月以上の端数を一年とせず昭和二八年一月一日から昭和三一年八月一〇日までの日割計算で算出しているが、これは失当である。

(ニ) 以上で取得価額から右減価償却額を控除して五万二、六二一円が本件建物の最終的取得価額となる。

算式 55,624-3,003=52,621

(2)  土地

本件土地の取得価額については所得税法第九条第一項八号、第一〇条の四第二項、資産再評価法第九条、第二一条第二項に従い、取得価額に同法別表第七の再評価倍数を乗じた倍数を再評価価額とし、他に特別に再評価基準日以後の設備費等の主張のない本件ではこれ即ち譲渡原価とし、その結果は別紙明細表(三)のとおり合計八万二、二四二・八一円となる(銭未満は切捨て)。なお同表中空白部分は直接には認定の必要のない部分であり、欄の中に〈1〉から〈7〉の数字のあるものは以下本文中に説明のあるもの、その数字のないものは争いのないものである(但し、取得時期について争いある分はその再評価倍数、再評価価額、譲渡原価についても当然争いがある点を注意)。

〈1〉について(番号1及び5)

いずれも成立に争いのない甲第一号証の二、同第二号証によれば、福岡県八女郡笠原村農地売渡計画により昭和二二年一〇月二日に右番号1及び5の二筆の土地が原告に売渡された事実を認めることができ、これに反する証拠はない。原告は昭和二一年六月吉住紋作から買受けた旨主張するがこれを証するに足りる証拠はない。とすれば被告主張どおり、再評価倍数七・五、再評価価額番号1は一一八・八〇円、番号5は一、六九二円となる。

〈2〉について(番号2及び4)

いずれも成立に争いのない甲第一号証の一、同第二号証によれば同郡笠原村農地売渡計画に基き昭和二二年三月三一日右番号2及び4の九筆の土地が原告に売渡された事実を認めることができ、これに反する証拠はない。原告は昭和二一年六月一二日に吉住紋作から右土地を買受けた旨主張するがこれを証するに足りる証拠はない。とすれば被告主張どおり再評価倍数一五、再評価価額番号2は二万二、六三八円、番号4は五、五一五・二〇円となる。

〈3〉について(番号7及び9)

原告が吉住紋作から代金一万円で番号7及び9の土地を買つたことについては、その時期、土地の範囲を除いて争いがない。被告はその時期について昭和二六年二月頃と主張するがこれを証するに足りる証拠はない。

原告は、昭和二一年六月頃右7及び9の土地と他に五筆併わせて一〇筆を買い、同年中に原告は右一〇筆の内一、二五四番地(その後合筆されて一、二五五番地の一の一部となる)の雑木を松浦博治に売却し、吉住の代わりに原告が地租を納めた旨主張し、成立に争いのない甲第六号証及び第一五号証の五、証人松野六三郎の証言は一見これに副うかにみえる。しかし、右証拠いずれも一〇筆といつても本件番号7及び9の土地をいうのか不明であり(因みに甲第三、一三号証についてはその作成の真正に関する立証がないうえ、その甲第三号証には売主の吉住が原告から一、二四六番地外九筆の土地の代金として一万円を領収したのは昭和二七年一〇月二〇日である旨の記載がある)直ちにこれを信用することはできず、他にこれを証するに足りる証拠はない。又番号7については、いずれも成立に争いのない乙第五号証の二ないし四によれば、元地目が畑で昭和二七年一二月一五日に地目を山林に変更したうえ、原告名義に所有権が移転され、その原因も同月一二日付売買となつている事実が認められ、これに反する証拠はない。そして原告主張の昭和二一年六月当時も農地の売買は知事の許可を要したことから売買契約と同時に法律的に所有権を取得できたものといえないことは明らかである。この点原告は実質課税主義を主張するが、これは所有権帰属の形式と実体とが異る時その実体面からみて課税されるべきということであつて、譲渡原価を算定するための取得価額計算の段階において取得時期を決める際に応用されるべき理論ではない。そして、右売買の時期が昭和二七年一二月一二日に登記されていることからすれば、原告が右番号7と同時に買つたという番号9の土地も原告主張の時期即ち昭和二一年六月に買つたと到底考えることはできない。しかし、遅くとも被告主張の昭和二六年二月頃までに買つた点については当事者間に争いがないものと考えるべきであるので、右番号7及び9の土地の取得時期を同年同月とすれば、結局再評価倍数は一・七となる。

取得価額については被告主張どおり各土地の価額がわからないので右五筆の土地の地積に応じて按分すればよいが(なお被告主張の番号9の一、二七五の価額は一万円を按分した金額以外とみる他なく不当である)、結局再評価倍数も同じなので各地に按分した金額を算出せずに一括して計算すれば、その合計は一万七、〇〇〇円となる。原告はこれに対し右五筆の現実の面積、当時の原野の時価等からみて反当三万五、〇〇〇円として八万四、〇〇〇円を主張するが、右いずれの事実をも証するに足りる証拠はない(原告は現実の面積について甲第一六号証を主張するが同号証は提出されていない)。

〈4〉について(番号8)

取得時期及び再評価倍数については当事者間に争いがない。取得価額について被告は三万二、七〇〇円(昭和三五年一〇月一二日黒木町長の証明による)と主張する。これに対し原告は、これを山下徳次から反当五万四、〇〇〇円で買つたので結局取得価額は三万六、七五六円である旨主張するが、本件全証拠をみても反当五万四、〇〇〇円であつたとの事実を証するに足りる証拠はなく、結局被告主張の限度では争いがないので取得価額を被告主張どおりとすれば再評価価額は三万二、七〇〇円となる。

〈5〉について(番号10の一、二五五番地の一)

右が元一、二四六番地、一、二四七番地の二、一、二五四番地及び一、二五五番地の四筆が合筆されたものであることには争いがない。成立に争いのない甲第一号証の三によれば、昭和二六年二月一日福岡県八女郡椿原地区土地売渡計画書により一、二五五番地の一として売渡価額七二・六〇円で売渡された事実が認められ、これに反する証拠はない。原告はこれに対し右は昭和二一年六月頃番号5の一、二四七番地の一と共に他一〇筆を吉住紋作から買つた際の一〇筆の一部に入るものであり、しかも譲渡時には七年生の茶畑となつていたので改良費、人件費等を考慮すれば、昭和二九年二月の売買実例反当五万四、〇〇〇円と同程度の価値のあつたものと主張し、甲第三、一三号証、同第一四号証の九、同第一七号証には右主張に副う記載があるが右書証にはいずれもその作成の真正についての証明がなく又至近の一、二〇六番地の土地の時価反当五万四、〇〇〇円についてはこれを証するに足りる証拠はない。

更に茶畑については後述茶樹の項でこれを評価するのでこの分は土地の項で考慮する必要はない。そして、仮りにこの土地が他の六筆と共に吉住から買つたものとしても、政府の農地売渡しによつて原告が所有権を取得したのであるから、被告の計算はこの売渡価額をもつて取得価額としたので、右一万円の一〇筆から除外して計算することになり却つて原告に有利になる。結局被告主張どおり再評価倍数一・七、再評価価額一二三・四二円(これについて被告は番号10の三筆をまとめて一七八・〇五円としているが)となる。

〈6〉について(番号10の一、二五五番地の二、三及び番号11)

被告主張の計算方法によれば、取得時期、取得価額、及び再評価倍数に争いがないので、別紙明細表(三)のとおりとなる。原告はこれに対し、前項〈5〉と同様に至近接続する一、二〇六番地の反当時価五万四、〇〇〇円によるべき旨主張するが、問題の時期は昭和二六年二月ないしは七月であるので右主張は失当であるばかりでなく、本件全証拠をみるも右反当時価を証するに足りる証拠はなく、結局この計算については被告主張を正当とする。

〈7〉について(番号3)

この再評価倍数が二・四であることには当事者間に争いがない(要約調書第二回目は二四となつているがこれは錯誤によるものである)ので、それに取得価額の三九七・二〇円を乗ずれば再評価価額は九五三・二八円となるべきところ、原・被告とも九、五三二・八〇円と主張しているがこれは明らかに両当事者の過誤であると認められるので、この再評価価額は九五三・二八円とする。

その他一、二〇三番地について

原告は吉住紋作から昭和二一年六月一〇筆の土地を買つた際この一、二〇三番地も含まれていた旨主張するが、これを証するに足りる証拠はなく(甲第三、一三、一七号証についてはその作成の真正に関する証拠はない)、却つて成立に争いのない乙第五号証の一によれば、原告の所有権については登記がなされていないことが認められる。

しかし、仮りに右一〇筆中に含まれていたとしても前述〈3〉と同様取得時期は昭和二六年二月とされる以上、取得価額は番号7及び9の五筆が一万円とされるか一、二〇三番地も入れた六筆の土地が一万円とされるかの違いがあるだけで、取得価額合計につき差は生じないので、結局この点には問題がないことになる。

(3)  農具

耐用年数一〇年の足踏脱穀機一台を計上することには争いがない。証人近藤兼義の証言によれば、原告はこれを昭和二二年から使用していた事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。とすれば既に耐用年数の一〇年を径過したところなので定額法で減価償却する場合の残存価額一割即ち六一〇円(原告は五五〇円と主張するがおそらく計算違いであると思料される)を計上することになる。その他の農具について原告主張のすべては一箇或いは一組の価額が五、〇〇〇円未満のものである(因みに原告が「その他主として鉄製品」「その他」として掲げるものについてもこれは一箇或いは一組の価額が五、〇〇〇円未満のものの合計額と考えられる)ので、既に農業所得算定の必要経費に算入ずみであること被告主張どおりであるので、これを譲渡原価を構成するものとみることはできない。

(4)  茶樹

譲渡当時の譲渡原価算定の方法がないので当時の時価をもつて譲渡原価とすることには争いがなく、この時価算定方法につき、被告は「相続税財産評価基準受び標準価額調書」による反当価額を基準としているが、他に何らかの信頼できる資料のない茶樹の場合には、原告主張のように単に右基準の二倍額というだけでは明確な証拠に基いていなく、更に証人近藤兼義の証言によれば、茶樹が収穫を生ずる八年までは間作により茶樹に対する肥培管理が兼ねられその間作の収益が茶樹育成の費用を補つて余りあることが認められ、これに反する証拠のないことも併わせ考えると結局一番明確な被告主張の右基準によらざるをえないことになる。そして右基準によつた場合の反当価額及び作付面積については当事者間に争いがないので、被告主張どおりこの譲渡原価は四万八、八九六円となる。

(三)  譲渡所得

所得税法第九条第一項本文の計算方法に従つて計算すると次のようになる。取得価額合計一八万四、三六九円となり、これに譲渡経費三万円については争いがないのでこれを加えたものを前記譲渡価額一〇九万五、三七七円から控除し、更に特別控除として一五万円を控除した金額の二分の一結局三六万五、五〇四円となる。

算式 〈省略〉

五、山林所得

原告は山林所得について八万五、九四〇円の欠損があつた旨主張するが、被告は、所得税法第九条第一項七号によれば所得は零となる旨主張するのでこれについて検討する。

原告は、山林の譲渡価額は二五万円(譲渡所得の項で前述)であり、その取得価額は一三万六、〇六〇円、管理費五万円と主張するので、右数額によれば同号にいう総収入金額から当該山林の植林費、取得費、その他必要経費を控除した残額は六万三、九四〇円となる。

算式 250,000-(136,060+50,000)=63,940

原告はこれから更に一五万円を控除しているが、同号に従つて所得計算をすれば右残額から同金額を控除することになり、結局右の場合所得は零となる。従つて仮りに右譲渡価額、取得価額等の数額を原告主張どおりとすれば欠損は認められないことになるので原告の右主張は失当である。

六、営業所得

原告はその昭和三一年所得税の算定に際して同年一一月及び一二月の飲食店経営による営業には九万五、八〇三円の欠損があつた旨主張する。しかし被告は営業所得は僅少であつたため所得として除外した旨主張するので、以下これについて検討を加える。

(一)  総売上高

(1)  原告が久留米財務事務所へ当年分の営業による収入金(遊興飲食税の課税対象たるべき収入金額であるか否かは別として)として五万六、五七一円を届出たこと、又原告は当年分の所得税を申告しなかつたので被告は原告に対し昭和三四年一二月二五日付で所得税賦課決定をなしたのに対し原告から異議が申立てられた時には既に原告の所得算定に必要な書類の殆んどが類焼により焼失してしまつていたことについては当事者間に争いがない。このことから考えるに、原告が届出た金額は果して遊興飲食税の課税対象外も含むすべての売上金額であつたか否かについては、他に何らのこれを明らかにする帳簿類の存しない本件の場合には直ちに原告の右主張金額をもつて全売上金額と断定することはできず、結局もとより客観的な推計の方法により検討せざるをえないこととなる。

原告は、当年一一月分の遊興飲食税の納付はなく、一二月分の納付額は四九円のみであつたこと、又両月分のガス代は合計四六六円、電灯代は一、四八〇円、水道代は三三〇円で家事関連費も含めて極めて僅かであつたことから考えて、右届出額が同税の対象外も含む全売上高である旨主張し、甲第一〇号証(成立に争いなし)、同第八号証の二五、二六、二三、二四(以上弁論の全趣旨より真正に成立)五九(成立に争いなし)は右主張に副うかのようであるがこのことからは直ちに原告主張事実を真実であると断定することはできない。却つて証人首藤義人の第一回証言によれば右届出額は同税の対象内のみとして届出られたことが認められる。

(2)  成立に争いのない乙第七、九号証、証人首藤義人(第一、二回)の証言によれば、被告の首藤義人係官が原告の開店当初の昭和三一年一一、一二月頃の酒の仕入先である高島武夫酒店から電話で、一一月分の仕入高として二万五、九六〇円、一二月分の仕入高として二万二、九四〇円を聴取して調査確認した事実が認められ、右の内高島酒店が原告の酒の仕入先であつたことについてこれに反する甲第一四号証の一〇、一一、一三(いずれも成立に争いなし)は前掲各証拠に照らし、又右係官が公務員の職務としてなしたことから考えても信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はなく、その余の事実についてはこれに反する証拠はない。

(3)  次に右酒類仕入高計四万八、九〇〇円を基本にこれから総売上高を算出する。この方法として被告は二つを主張しており、本件のように全く帳簿のない場合に通常利用される方法即ち総仕入高から商工庶業所得標準率を用いて総売上高を算出する方法については、原告は開店して二カ月にもならなかつたという事情を考慮してこれを第二次的な計算方法とし、原告に有利な方の、まず酒類の売上原価を算出しこれから総売上高を推計する方法を第一次的に採用した旨主張している。裁判所もこの第一次的方法によるのを相当と考えるので、以下これにより総売上高を算定することにする。

酒類売上差益率、総売上を一〇〇パーセントとした時の酒類の全体に対する売上げの割合を六三パーセントとすることには当事者間に争いがなく、昭和三一年一一月、一二月分の酒類の総仕入高四万八、九〇〇円の内期末酒類在庫は被告主張どおり一、〇〇〇円程度とするのを相当と考えるので、結局被告主張どおりの計算方法により計算すると総売上高推計は九万五、〇三一円となる。

算式 (48,900-1,000)÷(1-0.2)÷0.63=95,031

(二)  総売上原価

売上高について酒類とその他のものとの割合を六三パーセントと三七パーセントにすることについては前記のとおり争いがないが、仕入れについても両者の割合を右と同様に考えるのを相当とし、前記酒類仕入高四万八、九〇〇円を基準に総仕入高を計算すると被告主張どおり七万七、六一九円となる。

算式 48,900÷0.63=77,619

棚卸資産の期末在庫についても被告主張どおりの理由で酒類一、〇〇〇円、その他を六一九円と判断すれば、結局被告主張のとおり売上原価は七万六、〇〇〇円となる。

(三)  必要経費

被告は総売上高に同業者の平均所得率ないしは商工庶業所得の標準率を乗じて所得額を算出している。ところが右の内原告に有利な同業者の平均所得率〇・三二を乗じて所得を算出した場合(この場合には通常必要と認められる必要経費が見積られている)。以上に多額の金額を原告は現に一般、特別の区別はないが必要経費として支出した旨主張し、しかも相当な程度具体的にその用途が明確にされている。従つてこのような場合被告主張の所得率によらないで、結局その所得率による場合に考えられる通常の必要経費以上の必要経費について主張あつたものとしてこれを判断しなければならないと考える。そこで原告主張の諸必要経費について順を追つて検討を加えることにする。

(1)  雇人費三万〇、二五〇円については当事者間に争いがない。

その他のものについては、原告が開業に要した費用の内支出の効果が次年度以降に及ぶ固定資産に関しては、資本的支出或いは繰延費用として当該年度の支出費用から除外し、当該年度分に費用配分すべき減価償却費又は繰延費用の償却額のみを損金ないしは必要経費として計上しなければならないので、以下順に検討する。

(2)  消耗品

厨房用品の内三〇〇円未満のものの合計一、一三五円及び宣伝マツチ以下街頭放送に至る合計九、四五〇円については当事者間に争いがない。昭和二七年一月二六日国税庁長官の通達(改正後の所得税の取扱方について)第二九号によれば、三〇〇円以上の厨房用品九、三六〇円及び椅子座蒲団については固定資産に入れないことはできないので、厨房用品を原告主張のものすべて原告に有利に陶磁器製又はガラス製のもの或いはこれに類したものとみて耐用年数二年(以下耐用年数については昭和二六年大蔵省令第五〇号の耐用年数表別表一による)、償却率〇・五(以下償却率については同別表一〇による)、椅子については接客業用として耐用年数五年、償却率〇・二、座蒲団については耐用年数三年、償却率〇・三三三として定額法により(所得税法第一〇条の三、同施行規則第一二条の一三)計算すれば、各七〇二円、一二〇円、一四九円となる(円以下切捨て、なお期間を二カ月分として一二分の二、残存価額を一割とすること被告主張のとおり、以下同じ)。

算式 厨房用品 〈省略〉

椅子 〈省略〉

座蒲団 〈省略〉

(3)  修繕費

(イ) 給水設備

三、三二〇円、その耐用年数、償却率には争いがないが、原告は当年分として二分の三を乗じているが当年分としては一一月及び一二月の二カ月であるから被告主張どおり一二分の二を乗ずれば二四円となる。

(ロ) 電気設備

いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められるべき甲第八号証の一六、六八、八六、九五、九六によれば、原告が電気設備費として四万四、三三〇円(この内一万九、七三〇円については当事者間に争いがない)を支出した事実を認めることができ、これに反する証拠はない。耐用年数二五年、償却率〇・〇四については争いがないので前述のとおり一二分の二を乗じて計算すれば二六五円となる。

算式 〈省略〉

(ハ) その他

ガス設備金について支出した四、七二六円及び耐用年数については当事者間に争いがなく、この償却率は被告主張どおり〇・〇四六であるので三二円を計上する。その他の建造物造作費についてはいずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の六〇ないし六三、六五、六七、七一、八一ないし八五、八七ないし九三、九七、九八、一〇三ないし一〇五によれば材木代等原告主張の一〇万四、九八八円の内大工賃二〇工分一万四、〇〇〇円を除く九万〇、九八八円(この内三万六、六二〇円については争いなし)を原告が支出した事実が認められこれに反する証拠はない。この耐用年数は飲食店用として二七年、償却率〇・〇三七を相当として計算すれば五〇四円となる。

算式 〈省略〉

(4)  水道光熱費

いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の二五、二六によれば、一一月分、一二月分のガス代として計四六六円を、又成立に争いのない同号証の五九によれば昭和三一年の第六期分の水道代として六三六円を、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同号証の二三、二四によれば一一、一二月分の電灯代として計一、四五〇円をいずれも支払つた事実を認めることができ(内二、二四六円については争いがない)、これに反する証拠はない。これらについて、この内電灯料について原告は五分の四を計上すべき旨主張しているが、すべてについて家事関連費として二分の一を計上するのを相当と考えるので半額の一、二七六円を計上する。

算式 〈省略〉

(5)  広告宣伝費

(イ) ネオンサインについては当事者間に計算の基礎となる数額については争いがなく、その結果は円以下を切捨てる以上被告主張どおりの七四二円となる。

(ロ) のれんについて耐用年数は家庭用品でなく、広告器具の内金属性でないその他のものとして五年を相当とするので原告主張どおりの計算により四八円となる。

(6)  交際費

これについて原告は七、〇〇〇円を計上しているが、これはおそらく開店の際に支出したものと思料されるところ飲食店は大衆を相手とする食堂経営であるので、営業収支の面から過分のものと認められないものは交際費として認容されるべきであるが、これは事業を開始するために要した費用であるからその支出した年分のみの必要経費とすることが適当でないと考えられるので、当年分以外は開発費として繰延費用とされるべきである。被告主張どおりその支出金額を取得価額とし、概ね五年を耐用年数、残存価額を零として定額法により計算すれば二三三円になる(前記通達第一〇〇号)。

(7)  備品

(イ) いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の三、五、三七ないし三九、四一、九四によれば、主として金属性の厨房用品として原告が二万四、二二〇円を支出した事実が認められ、これに反する証拠はない。耐用年数、償却率には争いがないので原告主張どおりの計算方法によれば円以下切捨てれば七二六円となる。

(ロ) 娯楽用品五〇四円については争いがない。

(ハ) その他として看板板四、〇〇〇円については争いがなく、その他についていずれも弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められるべき甲第八号証の九、一八、六四、六六、七二、一〇二によれば大工賃七、〇〇〇円を除くその余について原告が各支出した事実が認められ、これに反する証拠はない。とすれば合計金五万三、五〇〇円となり、耐用年数、償却率については争いがなく、結局一、〇〇三円となる。

算式 〈省略〉

(8)  雑費

営業許可手数料についてはその額に争いはないが、前記交際費と同様事業を開始するために要した費用であるからその支出した年分のみの必要経費とすることは適当でなく被告主張のように当年分以外を繰延費用(資本的支出)とするのを相当と考えるので、概ね五年を耐用年数、残存価額を零として定額法により計算すれば、被告主張どおり六六円が当年分の必要経費となる。右手数料以外の雑費として、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一二ないし一四、一七、一九、二一、二二、四六、四七、六九、七九、八〇、九九、一〇〇、一〇六によれば、原告主張の三万四、〇四〇円(内三万二、一二〇円については争いがない)を支出した事実が認められ、これに反する証拠はない。これについては原告が三万四、〇四〇円に訂正増額する以前に三万二、一二〇円と主張していた頃被告はこの全額を計上することを認めており一、九二〇円の増額に対してもことさらこれを争つた形跡がないので、結局全額を計上することに争いがないとみ、又この全額を計上するのを相当と考える。

(9)  以上、当年分の必要経費としては合計八万〇、二六九円が計上されることになる。

(四)  以上により差引営業所得は(一)から(二)と(三)と合計額を控除した六万一、二三八円の欠損となる。

七、結論

以上によれば、原告の昭和三一年度分総所得額は前記二の農業所得一万六、八〇七円、三の給与所得二万二、三二八円、四の譲渡所得三六万五、五〇四円を加え、これから欠損のあつた営業所得六万一、二三八円を控除すれば結局三四万三、四〇一円の黒字となる。よつて同年度分の総所得額を二八万七、六一五円と決定した被告の本件決定には所得を過大に評価した違法はないことになる(営業所得について仮に原告主張のとおり九万五、八〇三円の欠損があつたとしても、その結論は右に変りのないことを附言する)。

なお原告は基礎控除の外に扶養控除等の各種の控除を主張しているが、原告の当年度分の所得税に関して無申告であり被告の方からの昭和三四年一二月二五日付決定通知によるものであること当事者間に争いがないところ、被告主張どおりこの場合には基礎控除を除く他の各種の控除は原則として認められないので原告の右主張には理由がないことになる。なお基礎控除八万円については被告もこれを考慮している(成立に争いのない甲第四号証の二)ので、結局控除の点からも被告の本決定には違法はないことになる。

よつて原告の本訴請求には理由がないことになるのでこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 川上孝子 裁判官山口茂一は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 中池利男)

原告

第一、請求の原因

一、被告は昭和34年12月25日付をもつて原告の昭和31年度分所得税について、総所得額を金320,700円、所得税額を金58,700円とする旨決定し、同日その旨を原告に通知した。

二、原告は昭和35年6月10日被告に上記決定に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年9月20日付をもつて原告の昭和31年度分所得税につき、総所得額金287,615円、所得税額を金48,800円とする旨決定(以下、本件決定という)し、その通知書は同月23日原告に到達した。

三、原告は昭和35年9月24日被告に上記二の決定に対しさらに再調査の請求をしたところ、被告は同年10月11日付をもつて原告の再調査請求を棄却する旨決定し、同月12日ごろその旨を原告に通知した。

四、原告は昭和35年10月12日上記三の決定に対し審査請求をしたところ、福岡国税局長は同年12月16日付をもつて原告の審査請求を棄却する旨決定し、同月17日ごろその旨を原告に通知した。

五、しかし、被告が昭和35年9月20日付をもつてなした上記二の更正決定は、原告の所得を不当に認定評価した違法があるので、この取消を求める。

第二、被告の主張に対する答弁および原告の主張

一、農業所得 金82,639円(欠損)

(〈1〉Ⅱ)+〈2〉Ⅰ)-〈3〉)

〈1〉 田の所得 金4,377円(Ⅱ)

Ⅰ) 反当標準所得、作付面積は認めるが成熟度は争う。

Ⅱ) 認める。

〈2〉 畑の所得 金10,700円(Ⅰ)

Ⅰ) 認める。

Ⅱ) 反当標準所得、作付面積は認めるが成熟度は争う。

〈3〉 必要経費金97,716円(Ⅰ)+Ⅱ)+Ⅲ)+Ⅳ)+Ⅴ))

被告主張のⅠ)、Ⅱ)を認める、但しこれに次の三項を追加計上する。

Ⅲ) 肥料代外 10,166円

(乙第8号証により追加)

Ⅳ) 立毛水稲 39,744円

〈省略〉

Ⅴ) 立毛畑作 22,606円

〈省略〉

(Ⅳ、Ⅴは農業所得算定の際の必要経費である。なお、Ⅴについて、期間と成熟度を乗ずるのは重複して評価することになるので期間だけを乗ずれば足りる。)

四、営業所得 金95,803円(欠損)

(一) 原告が久留米財務事務所へ届け出た収入金額が金56,571円であること、および雇人費が金30,250円(〈9〉)であることは認めるが、その余は否認する。

上記金額のみが、原告の営業収入であつて、他に課税対象外の収入金額はないのみならず、原告が営業を開始するに要した設備費、備品、器具類の購入費等は当然控除さるべきである。

〈4〉 認める。

(二) 否認する。

(三) 原告の算定した営業所得は下記のとおりである。

〈1〉 総売上高 金56,571円

総売上高のうち酒類の売上高の割合を63%、その他を37%(被告主張(一)〈5〉のとおり)とすると、酒類の売上高は金35,640円、その他の売上高は金20,931円となる。

〈2〉 酒類の所得 金5,940円

酒類の売上差益率を被告主張どおり20%とする。

算式 〈省略〉

(但し分母を120としたのは、100とすれば利益を二重に含めることになるからである)

〈3〉 その他の所得 金4,953円

標準所得率を31%(被告主張の(二)〈5〉のとおり)とする。

算式 〈省略〉

〈4〉 算出所得額(〈2〉+〈3〉)金10,893円

〈5〉 仕入品原価(〈1〉-〈4〉)金45,678円

〈6〉 標準外特別経費 金106,696円

(特別経費、一般経費は区別されていない。)

イ)雇人費 金30,250円

ロ)消耗品 金26,935円

これはすべて当年分必要経費として計上する。

カンビン、皿、杯等 金16,450円

椅子 金4,000円

座蒲団 金3,000円

宣伝マツチ 金2,500円

半月布 金2,000円

年賀状 金1,450円

街頭放送 金3,500円

ハ)修繕費 金157,364円のうち金1,545円

Ⅰ) 給水設備 金3,320円のうち金37円

所得税法施行細則第4条但書(以下単に細則という)および昭和26年大蔵省令第50号(以下単に省令第50号という)耐用年数表別表第1のうち「建物及附属設備」「給排水設備」、として耐用年数20年であるから、償却率は0.05である。

算式 〈省略〉

Ⅱ) 電気設備 金44,330円のうち金398円

「電気設備」として耐用年数25年であるから償却率0.04である。

算式 〈省略〉

Ⅲ) その他(ガス設備、材木代等)

金109,714円のうち金1,110円

耐用年数22年であるから、償却率0.045である。

算式 〈省略〉

ニ)水道光熱費 金3,064円のうち金2,175円

Ⅰ) ガス使用料 金296円

11月分金319円、12月分金273円のうち家事関連費1/2を控除し計上する。

Ⅱ) 水道料 金165円

11、12月分金330円のうち家事関連費1/2を控除し、計上する。

Ⅲ) 電灯料 金1,714円

11月分金1,071円、12月分金1,071円のうち家事関連費1/5を控除し計上する。

ホ)広告宣伝費 金16,473円のうち金791円

Ⅰ) ネオンサイン金14,873円のうち金743円

耐用年数3年であるから、償却率0.333である。

算式 〈省略〉

Ⅱ) のれん 金1,600円のうち金48円

耐用年数5年であるから、償却率0.2である。

算式 〈省略〉

ヘ)交際費 金7,000円

営業上必要な関係者の接待を兼ねて招待の折詰代である。その他の酒肴費用は不明であるから計上しない。

ト)備品費 金118,320円のうち金2,933円

Ⅰ) 厨房用品 金24,220円のうち金727円

耐用年数5年、償却率0.2である。

算式 〈省略〉

Ⅱ) 娯楽用品 金33,600円のうち金504円

耐用年数10年、償却率0.1である。

算式 〈省略〉

Ⅲ) その他 金60,500円のうち金1,702円

耐用年数8年、償却率0.125である。

算式 〈省略〉

チ)雑費 金35,040円

営業許可手数料等すべて当年分の必要経費として計上する。

合計 必要経費(イ、ロ、ニ、ヘ、チ)金101,427円償却額(ハ、ホ、ト)金5,269円

〈7〉 差引営業所得{〈1〉-(〈5〉+〈6〉)}金95,803円(欠損)

二、給与所得 金22,328円認める。

三、譲渡所得

1、収入金額

金699,503円((一)-(二)){(一)-((三)+2〈1〉(一))}

(一) 認める。

(二) 被告の主張に同調し立毛価額算定の一部を訂正(前記一〈3〉Ⅳ、Ⅴのとおり)し、農業所得の必要経費として計上する。

(三) 否認する。

原告はこれについて金250,000円を計上する。この山林は昭和28年5月20日金100,000円の抵当権の目的となつており、昭和34年1月19日金200,000円の抵当権の目的となつている。しかして、笠原農業協同組合の貸付金規定によると、貸付金額が抵当物件の時価の2分の1以内に限られている。しかし、本件では土地付山林の価額であるから、山林の年次も増加等を勘案して金250,000円を相当と考える。

2、取得価額 金721,869円((一)+(二)+(三)+(四))

(一) 建物 金250,497円

〈1〉 本件建物(福岡県八女郡黒木町大字笠原1,254番所在、家屋番号460)の取得時期

否認する。

本件建物は昭和21年4月下旬竣工したものであつて、原告は竣工により取得した。

被告の主張する「最小限度入居可能時」というあいまいな概念は法令上根拠がない。原告が本件建物に入居した昭和21年1月中旬には、本件建物は末だ完成していなかつた。

〈2〉 否認する。

家屋台帳の記載は不正確であつて、事実に反する。本件建物の建坪は居宅部分35・56坪、納屋部分12・13坪、合計46・69坪である。しかも本件建物の賃貸価額と同額程度の本件建物に近接する建物は、当時すでに建築後40年を経過し、改築したものもあり、麦藁葺か瓦葺かという構造、建坪の相違を考慮せずに算定されている。従つて、これによる算定は不当である。

原告が本件建物取得に要した費用は金20,499円であり、これに再評価法による倍数13を乗じ、再評価基準日以降譲渡まで3年間の固定資産の減価償却額金15,990円を差し引いたものを取得価額とすべきである。

算式 20,449×13-15,990=250,497

〈3〉 但し、租税特別措置法第18条により、居住用家屋の買換の場合の特例として、当該家屋はその譲渡がなかつたものとみなされるので、譲渡価格から控除する。

なお、原告が申告書にその旨書いてないことを認める。

(二) 土地

被告の主張に対する認否は別紙明細表(二)のとおりである。ただし、同表中番号、地番および番号12の各欄を除くその余の当該欄中横線部分は被告の主張事実を認めるものであり、数字記載部分は被告の主張事実を否認し、さらにそれに対する原告の主張である。

〈1〉 取得時期、同価額は否認する。

原告は被告主張の合筆前の4筆の土地を同所1.247番地の1(別紙明細表(一)(二)の番号5に該当)とともに昭和21年6月ごろ取得したのであるが、当時は自作農創設特別措置法によつて登記ができなかつたため、原告はこの移転登記を受けぬまま譲渡までの間中断することなく管理してきた。原告は上記土地を開墾し、杉約300本を伐採して茶畑に改造し、譲渡時には7年生の茶樹のある茶畑となつていた。上記土地の取得価額を原野としての売渡価額とすることは不当であり、茶畑改良に要した人件費、種子肥料代等を考慮して時価によるべきである。上記土地に至近接続する同所1.206番地の土地(別紙明細表(一)(二)の番号8に該当)は、原告が昭和29年2月訴外山下徳次から買い受けたものであるが、その時価は反当金54,000円である。これによると、被告主張の合筆前の4筆のそれは金59,940円である。

〈2〉 原告が訴外吉住紋作から金10,000円で土地を買い受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告が買い受けたのは被告主張の土地を含めて合計10筆の土地である。すなわち、被告主張の5筆と前記〈1〉の合筆前の4筆および同所1.203番地の畑1畝4歩である。

上記5筆については土地台帳によれば2反4畝5歩であり、立木の譲渡価額との関係から反当金35,000円として譲渡原価金84,000円を計上する。

これは、上記5筆の現実の面積が黒木町森林組合の森林台帳によれば実反別1町2反であること、又当時の原野の時価は反当金10,000円であつたことからみても決して不当な金額ではない。

〈3〉 別紙明細表(一)番号10のうち同所1.255番地の2および3、ならびに番号11の土地についても、上記〈1〉と同様、これに至近接続する同所1.206番地の時価によるべく、従つて、譲渡原価として金83.520円を計上する。

〈4〉 同所1.203番地の畑(別紙明細表(二)番号12)については、上記〈2〉のとおり、原告がこれを買い受け、爾来譲渡時まで原告がこれを耕作管理してきたのであるが、現在に至つて始めて移転登記を受けていない事実を発見したのである。原告が実質的に所有権を取得し、その収益を享受している以上、原告がその登記名義を有していないの一事をもつて排除することは税務計算上許されない。よつて、上記〈1〉と同様これに隣接する同所1.206番地の時価によれば譲渡原価は金6,120円を計上する。

(三) 農具

足踏脱穀機を譲渡したこと、耐用年数10年であることは認める。

取得価格金5,490円、償却額金4,940円であるから、差引譲渡原価金550円である。

なお、下記物件も譲渡したものであり、これは所得税法第9条第1項8号、同施行規則第4条、耐用年数表別表第4および基本通達第135号に従つて計算する。

〈省略〉

従つて、農具譲渡原価合計金19,787円を計上する。

(四) 茶樹 金97,536円

時価をもつて譲渡原価とすること、「相続税財産評価基準及び標準価額調書」による反当価額、作付面積は認める。しかし、時価算定を右基準価額によることは争う。

一般に相続税のための財産評価は低額に失し、時価を表現していない。従つて、原告は上記価額の2倍を、本件茶樹の譲渡時における再評価取得価格として計上する。作付面積1反2畝21歩であるから金48,768円の2倍として金97,536円を計上する。

3、土地、建物、農具、茶樹の譲渡原価と譲渡経費30,000円(被告主張のとおり)との合計額751,869円を譲渡価額から控除し、法定の税務計算をすれば、譲渡所得は24,065円である。

算式 〈省略〉

五 山林所得

〈1〉 山林の譲渡価額 金250,000円

但し、立木のみで底地は含まれない。

原告の上記四、1、(三)のとおりである。

〈2〉 山林の取得価額 金136,060円

被告主張の四、1(三)の計算を援用する。しかし、これは被告の昭和31年度分相続財産評価基準および標準価額調書によるもので、金68,030円を計上しているが、これを一般譲渡の評価基準とすると時価に比較して低きに失する。原告は上記基準の2倍の金額をもつて再評価取得価額とするのが相当と考える。

〈3〉 山林の管理費 金50,000円

本件山林の現反別が1町1反9畝であるので、年間春秋の2回手入をし、毎回人夫10名、日当一人金250円として10年分の管理費は金50,000円である。

算式 250×20×10=50,000

〈4〉 特別控除額 金150,000円

〈5〉 差引所得価額 〈1〉-(〈2〉+〈3〉+〈4〉)

金85,940円(欠損)

六、以上のとおり原告は昭和31年度分総所得額は金217,979円の欠損となり、しかも法定の諸控除をすれば金502,511円の欠損となり、原告には同年度分の所得の確定申告をする義務がないにも拘らず、被告には不当に税務計算をした違法があるので、その取消を求めるものである。

算式 22,328+24,065+(-82,629)+(-95,803)+(-85,940)-(80,000+157,500+207+422)=502,511

(給与所得)(譲渡所得) (農業所得)(営業所得) (山林所得)(基礎控除) (扶養控除) (医療控除) (保険控除)(欠損)

但し、原告の主張どおりの数額で上記算式を計算すれば、456,108円の欠損となる。

被告

第一、請求の原因に対する答弁

一、ないし四、の事実は認める。

五、争う。

第二、被告の主張(および原告の主張に対する答弁)

原告の昭和31年度分所得税について、総所得金額は以下のとおりである。

一、農業所得 金16,807円(〈1〉+〈2〉-〈3〉)

〈1〉 田の所得 金27,027円(1)+Ⅱ)

Ⅰ) 水稲(昭和31年8月10日立毛のまま訴外仲司桃太郎に売却した分)金22,650円

反当標準所得を金15,100円、作付面積を3反、成熟度を5/10とする

算式 〈省略〉

Ⅱ) 裏作 金4,377円

反当標準所得を金1,459円とし作付面積は上記Ⅰ)と同じ。

算式 1,459×3=4,377

〈2〉 畑の所得 金14,980円(1)+Ⅱ))

Ⅰ) 1月以降6月までの分は収穫済として計算。反当標準所得を金8,560円、作付面積を2・5反、1月以降6月までであるから6/12とする。

算式 〈省略〉

Ⅱ) 7月以降12月までの分(昭和31年8月10日訴外仲司桃太郎に売却した分)

反当標準所得、作付面積は上記Ⅰ)と同じ。

7月以降12月までであるから6/12とし、成熟度を4/10とする。

算式 〈省略〉

〈3〉 標準外特別経費金25,200円(Ⅰ)+Ⅱ))

Ⅰ) 雇人費 金16,200円

八女税務署管内標準雇人費は主として農耕に従事する者が一人で6反(田を3反、畑を2・5反の合計6反一四捨五入-として認定)の場合金8,100円とし、原告は元軍人で農耕未経験者であるから、その倍額を認定した。

算式 8,100×2=16,200

Ⅱ) 牛馬耕料 金9,000円

八女税務署管内には標準牛馬耕料が作成されていなかつたため、近隣の筑紫税務署管内のそれによる。これが反当金1,500円、作付面積上記Ⅰ)と同じ。

算式 1,500×6=9,000

〈4〉 なお原告主張のⅢ)ないしⅤ)については〈1〉のⅡ、〈2〉のⅠにおいて被告主張と同じ反当標準所得-原告は反当標準所得といいながら、その主張する金額は反当標準収入に間違つている-を基準にする限りにおいては、既にその標準必要経費は控除されているので、これは失当である。

四、営業所得

原告は営業所得計算上必要な原始記録および証拠書類を呈示しなかつたので、被告は所得税法(昭和23年法第27号、以下この旧所得税法を単に所得税法と略す。)第45条第3項により、下記のとおり推計した。

(一) 原告が久留米財務事務所に届け出た遊興飲食税の課税対象たるべき収入金額が金56,571円である。

しかし、これは同税の課税対象外の金額を含んでいない。

〈1〉 酒類仕入高 金48,900円

これは被告係員が原告の仕入先である高島武夫酒店から調査確認したもので、昭和31年11月分仕入高金25,960円、同年12月分仕入高金22,940円の合計である。

〈2〉 期末酒類在庫 金1,000円

期末酒類在庫を確認する直接資料がないが、大衆酒場であること、仕入状況から酒2升分(金1,000円)と判断した。

〈3〉 酒類売上原価(〈1〉-〈2〉)金47,900円

〈4〉 酒類売上差益率 20%

〈5〉 総売上を100%とした場合の売上割合

酒類 63% その他 37%

〈6〉 酒類売上高推計 金59,870円

算式 47,900÷(1-0.2)=59,870

〈7〉 総売上高推計 金95,031円

算式 59,870÷0.63=95,031

〈8〉 算出所得 金30,409円

同業者平均所得率を0.32とする。

算式 95,031×0.32=30,409

〈9〉 標準外特別費(原告のいう雇人費)金30,250円

〈10〉 差引営業所得(〈8〉-〈9〉)金159円

以上のとおり、営業所得額が僅少であつたから、当該年度分の営業上の所得はないものと認定した。

(二) 被告の商工庶業所得標準率を用いて算定しても下記のとおりである。

〈1〉 酒類仕入高 金48,900円

上記(一)〈1〉のとおり。

〈2〉 総仕入高 金77,619円

仕入、売上とも同じ割合と判定し、酒類63%、その他37%と認定し、酒類の仕入高から総仕入高を計算したものである。

算式 48,900÷0.63=77,619

〈3〉 売上原価 金76,000円

棚卸資産の期末在庫を酒類金1,000円(上記(一)〈2〉のとおり)、その他金619円と認定した。

算式 77,619-(1,000+619)=76,000

〈4〉 収入金推計高 金124,590円

原告の営業届出は飲食営業となつているが、大衆酒場類似と判定し、酒蔵(大衆酒場)の標準差益率を適用して計算した。

算式 76,000÷(1-0.39)=124,590

〈5〉 算出所得金額 金38,622円

標準所得率は0.31である。

算式 124,590×0.31=38,622

〈6〉 営業所得金額 金8,372円

人件費金30,250円(上記(一)〈9〉のとおり)は標準所得率適用の場合標準外特別経費と認定した。

算式 38,622-30,250=8,372

上記のように計算しても、被告の営業所得は金8,372円に過ぎない。

(三) 原告が開業に要した費用はすべて当該年度の所得計算上損金に計上すべきものではなく、税法の期間計算によれば、支出の効果が次年度以降に及ぶものは資本的支出あるいは繰延費用として当該年度分の支出費用から除外し、当該年度分に費用配分すべき減価償却費または繰延費用の償却額のみを損金と認める(所得税法第10条第2項、第10条の3、第1項)。

仮りに、収入金、売上原価は上記を基本とし、営業費について原告主張を是否認計算をし税務計算をすれば次のとおりとなる。

〈1〉 収入金 金 124,590円

〈5〉 売上原価 金 76,000円

〈6〉 営業費 金 77,256円

イ)雇人費 金30,250円

ロ)消耗品 金11,075円

定額法により減価償却費を計算する場合残存価額一割として計算。

2/12は当該固定資産取得後当該年中に経過した期間に配分。

厨房用品等耐用年数5年、償却率0.2厨房用品のうち300円以上のもの合計9,360円のうち280円を認容、その余は資本的支出。同300円未満のものの合計1,135円は原告主張どおり。

(算式 〈省略〉)

椅子、座蒲団、合計7,000円のうち210円を認容、その余は資本的支出。

(算式 〈省略〉)

宣伝マツチ以下街頭放送まで原告主張のとおり認容。

ハ) 352円

Ⅰ) 金24円を是認

耐用年数、償却率原告主張どおり

(算式 〈省略〉)

Ⅱ) 電気設備金19,730円中 金18,400円について、金110円を是認。耐用年数、償却率原告主張どおり

(算式 〈省略〉)

Ⅲ) ガス設備金4,726円のうち金32円を是認。耐用年数22年、償却率0.046

(算式 〈省略〉)

建造物造作費として金36,620円のうち金186円を是認。耐用年数30年償却率0.034

(算式 〈省略〉)

その余は資本的支出である。

ニ)水道光熱費として金2,246円のうち金1,123円を是認(家事関連費として1/2)。

ホ)772円

Ⅰ) 金742円は是認する。

耐用年数、償却率原告主張どおり

(算式 〈省略〉)

Ⅱ) 金30円は是認する。

耐用年数8年、償却率0.125である。

その余は資本的支出および家事関連費。

(算式 〈省略〉)

ヘ)金233円は是認するが、その余は否認。

繰延費用(開発費)に該当する。

償却期間5年、償却率0.2

(算式 〈省略〉)

ト)1,265円

Ⅰ) 金686円は是認。

耐用年数、償却率原告主張どおり

Ⅱ) 金504円は是認。

Ⅲ) 看板金4,000円のうち金75円を是認。

耐用年数、償却率原告主張どおり

(算式 〈省略〉)

チ)営業許可手数料2,000円のうち金66円を是認、残額は繰延費用。

償却期間5年、償却率0.2

(算式 〈省略〉)

その余の32,120円については原告と同じ。

〈7〉 差引営業所得{〈1〉-(〈5〉+〈6〉)}金28,666円(欠損)

(以上は原告のいう経費すべてについて是否認計算をしたものではない。)

二、給与所得 金22,328円

原告の受けるべき恩給額は金55,820円であつたが、原告が満50才になる昭和32年4月まで若年停止(恩給法第58条の3第1項により10分の5を停止)されていたので所得税法第9条第1項第5号により、次のように算出する。

算式 〈省略〉

三、譲渡所得

1、収入金額

金1,095,377円{(一)-((二)+(三))}

(一) 原告は昭和31年8月10日訴外仲司桃太郎に対し、建物、土地、農機具等を金1,200,000円で譲渡した。

(二) 立毛の価額金36,593円(〈1〉+〈2〉)

〈1〉 水稲 金29,811円

契約書による水稲作付3反、反当標準収入を金19,874円、成熱度を5/10とする。

算式 〈省略〉

〈2〉 畑 金6,782円

契約書による普通畑作付2.5反、反当標準収入を金13,564円、成熟度を4/10とする。

算式 〈省略〉

反当標準収入は八女郡黒木町地区における昭和31年度の農業所得標準率による。

(三) 立木の価額 金68,030円(〈1〉+〈2〉)

〈1〉 杉 金56,750円

樹令20年、標準価額1町歩当金227,000円、地積0.25町として算出する。

算式 227,000×0.25=56,750

〈2〉 雑木 金11,280円

樹令9年、標準価額1町歩当金12,000円、地積0.94町として算出する。

算式 12,000×0.94=11,280

標準価額は昭和31年度分相続財産評価基準および基準価額に、樹令、地積は課税決定の際原告の提出した黒木町森林組合の証明書による。

2、取得価額 金183,211,33円((一)+(二)+(三)+(四))

(一) 建物 金42,883円

所得税法第9条第1項8号、第10条の4及び5

資産再評価法第8条、第25条、第26条

財産税法第25条、同施行規則第20条により計算する。

〈1〉 本件建物の取得時期

本件建物は最近都市部における請負建築にみられるような完成引渡ではなく、終戦直後の郡部における建築で、最小限度入居可能となり、入居の事実が認められる時をもつて取得時期とすべきである。原告が八女郡笠原村字釈形8.688番地酒井三郎方に転入したのが昭和20年10月ごろで原告の長男茂治の出生が同年11月10日ごろであつて、このころ原告は本件建物の建築に着手した。原告は昭和21年正月には本件建物に入居していた。これらの事実に徴し、原告が本件建物を取得したのは財産税調査時期である昭和21年3月3日以前であると認定した。

〈2〉 本件建物の家屋台帳上の賃貸価格は金20円(床面積25・25坪)であり、これを固定資産税台帳の床面積(34・43坪)に改算して、当該地区の財当税評価倍数100を適用した(財産税法25条、同施行規則第20条)。

算式 〈省略〉

本件建物の固定資産税の昭和31年評価額は金36,720円で、これと上記認定に基づく再評価額を計算すると金42,883円となるので比較すると、上記算定は決して不合理ではないのみならず、原告にとつては有利でさえある。

本件建物の耐用年数を45年、再評価倍数を17とすると、再評価価額(2,727×17)は金46,359円となり、昭和28年1月1日から譲渡時までの償却額は金3,476円となる。従つて差引譲渡原価は金42,883円である。

算式 46,359-3,476=42,883

〈3〉 仮りにその規定の要件事実に該当するとしても、同法施行規則第22条第3項により、譲渡にかかる年分の申告書に右第18条の適用を受けようとする旨およびその財産にかかる譲渡所得に関する明細を記載しなければならないにも拘らず、原告はこの手続をふんでいない。

(二) 土地

土地の譲渡原価は所得税法第9条第1項8号、第10条の4、資産再評価法第9条に従い計算すると別紙明細表(一)のとおりである。

なお

〈1〉 福岡県八女郡笠原村大字笠原字大野1.255番地の1の原野(別紙明細表(一)のうち番号10に該当)はもと同所1.246番地、1.247番地の2、1.255番地、1.254番地の4筆を合筆したものである。これは昭和26年2月1日福岡県八女郡椿原地区土地売渡書によつて原告に売り渡されたものであるから、売渡金額金72・60円をもつてこの取得価額とした。

〈2〉 別紙明細表(一)番号7および9の土地については、原告は、訴外吉住紋作から昭和26年2月ごろ金10,000円でこれを買い受け、昭和27年10月20日その代金を支払つた。しかし、その地目別価格は判定の根拠がないので、上記金額を各地積に按分して計上した。

(三) 農具

譲渡物件中足踏脱穀機1台を計上する。取得時期昭和22年、同価格金6,100円、耐用年数10年とすると差引譲渡原価金610円である。

その他の農具については、耐用年数が1年未満のもの或いは1箇・1組の価格が5,000円未満のものであるので、既に当該期分の必要経費に算入ずみである。

(四) 茶樹 金48,896円

原告が茶樹を譲渡したときから相当期間を経過した今日、この譲渡原価となるべき肥培管理費を断定する資料が存しないので、当時の茶樹の時価をもつて譲渡原価として計算することとし、時価としては、茶樹の当時の現況不明のため、昭和31年度「相続税財産評価基準及び標準価格調書」によつた。これによれば、成熟期(青年期)の茶樹(6~9年生)の反当価額は金38,400円であり、作付面積が1反2畝22歩である。従つて、茶樹の譲渡原価は金48,896円である。

3、建物、土地、農具、茶樹の譲渡原価合計金183,211,33円と譲渡経費を金30,000円とし、譲渡価額からこれを差し引いた差引所得は金882,165,67円である。課税対象となる譲渡所得は金366,083円となる。

算式 〈省略〉

五 山林所得

所得税法第9条第1項第7号による計算の結果、所得は零であり、原告の主張は争う。

六、以上のとおり原告の昭和31年度分総所得額は金405,218円であり、又、仮りに営業所得につき上記28,666円の欠損があるとしても、その総所得額は金376,552円であるから、これを金287,615円とした本件決定は違法ではない。

原告の場合、無申告決定であるので基礎控除を除くその他の控除は認められない(所得税法第28条)。

明細表(一) (被告の主張)

〈省略〉

明細表(二) (原告の主張)

〈省略〉

明細表(三)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例